習得重要度A試験的には、公務員の政治活動についての是非を問うた非常に重要な判例。違憲審査基準に付いて、学者から批判がある裁判。


被告人は、北海道猿払村にある郵便局に勤務する郵便事務官で、
同地区の労働組合協議会事務局長をしており、昭和42年の衆議院選挙の際
日本社会党を支持する目的を持って、
同党公認候補者の選挙用ポスター6枚を勤務時間外に公営掲示場に掲示し、そのポスター184枚を他者に依頼し配布しました。

この行為が、
国家公務員法102条及び人事院規則14-7 6項13号に違反するとして、
国家公務員法110条1項19号に基づいて稚内簡易裁判所より罰金5千円の略式命令を受け、正式裁判を請求しました。

国家公務員法102条1項【政治的行為の制限】

職員は、政治又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らかの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

人事院規則14-7 6項13号

 政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。

争点と第一審・第二審

第一審では、

「非管理職である現業公務員で、その職務内容が機械的労務の提供に止まる者が、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、
若しくはその公正を害する意図なしに行った人事院規則14-7 6項13号の行為で且つ労働組合活動の一環として行われたと認められる所為に刑事罰を加えることをその適用の範囲内に予定して
いる国家公務員法110条1項19号は、このような行為に適用される限度において、行為に対する制裁としては、合理的にして必要最小限度の域を超えたものと断ぜざるを得ない」

とし、>国家公務員法102条1項は憲法21条、31条に違反する規定として無罪としました。

第21条【集会・結社・表現の自由、通信の秘密】

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

第31条【法定の手続の保障】

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

控訴審の札幌高裁も第一審を支持し、検察側が上告。
争点は、一言で言えば、公務員の政治活動を禁止している国家公務員法及び人事院規則が憲法21条の表現の自由に違反していないか、という点です。

判旨要約・解説

行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益に他ならない・・・公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである。

行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するための措置の目的は正当で・・・公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは禁止目的との間に合理的な関連性がある・・・得られ利益は、失われる利益に比して重要・・・

その保護法益の重要性にかんがみるときは、罰則制定の要否及び法的刑についての立法機関の決定がその裁量の範囲を著しく逸脱しているものであるとは認められず・・・

一段目は公務員の政治活動が制限される根拠、二段目はその規制の合憲判断基準の規範について、三段目はその当てはめについて述べています。

これらの解説については、下リンク先のページの真ん中辺りにある見出し「公務員の政治活動が制限される根拠と許される度合い」以下に譲ります。

確認されてからまた戻って来て頂いて先に進めていただければと思います。お手数おかけして申し訳ございません。

以下は、行政書士試験ではちょっと細かい部分ですが、試験の難易度が上がっているため、今後は出題の可能性もあります。問題意識として捉えておくのも良いかもしれません。

違憲審査基準の対比

この最高裁判決、実は、学者から批判が結構ある判決です。

違憲審査基準の違いのイメージ

違憲審査基準が「合理的関連性」という緩めの、人権が制限される問題の法律が合憲になりやすい審査基準が適用されました。つまり、公務員の政治活動の自由(21条 表現の自由)がより制約されやすい審査基準です。

政治活動の自由とは、非常に重要な人権で、ここが不当に制限されると民主政の過程に大きな傷がつき、自己回復が困難になります。

ですから、ここは政治活動に対する制約は必要最小限であることが必要で、
審査基準は「より制限的でない他の選びうる手段(LRAの基準)」を使うべきであるとの主張になります。

LRAの基準を用いていれば、きっと違憲判決が出ていたでしょう。

実際、第一審ではLRAの基準を適用していると思われ、
最高裁判決と第一審(控訴審も)の違憲審査基準の対比にも注目していただけると良いと思いますよ。

それにしても、最高裁でこれがひっくり返るということは、
何らかの「政治的意図」が入ったと、私は勘ぐってしまいます。

実際にこの時期には公務員の労働基本権についての判決を出していますが、
公務員の人権について制約が強くなっている判決が出ています。
個人的にも奇妙な判決だとは思うし批判も共感できます。

公務員の政治活動には厳しく対処していかなければならないという姿勢は非常に共感できますし、そうでなければならないと日々感じていますが、
「非管理職である現業公務員で、その職務内容が機械的労務の提供に止まる者が、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、若しくはその公正を害する意図なし」だったわけですから、この判決はちょっと厳しいかなと思います。


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