習得重要度A公務員の労働基本権についての重要判例「全逓東京中郵事件」と併せて、判例の変遷について把握しておきたい。


昭和33年10月、当時の内閣は警職法(警察官職務執行法)改正案を衆議院に提出しましたが、その内容が警察官の職権濫用を招き、ひいては労働者の団体運動を抑圧する危険が大きいとして、各種労働団体はもちろんのこと、全国規模で反対運動が展開されていました。

全農林労組も総評(日本労働組合総評議会)の第四次統一行動に参加することになり、被告人ら同労組幹部が同年11月5日の職場大会の実施について、
正午出勤の行動に入れを指令を出し、また同日午前10時頃から11時40分ごろまでの間、農林省職員の職場大会において約3千名の職員に対して職場大会への参加を慫慂(しょうよう=しきりに勧めること)するなどしました。

これらの行為が国家公務員法98条5項(改正前)に違反するとして、同100条1項17号にて起訴されました。

国家公務員法第98条2項(改正後)

2 職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。
又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。。

国家公務員法第110条1項17号

 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
17.何人たるを問わず第98条第2項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者

争点

直接的な争点は、公務員の労働基本権の制限・禁止法制の合憲性問題です。
具体的には、国家公務員法第98条2項及び国家公務員法第110条1項17号の合憲性ということになります。

第一審は、被告人らの行為が強度の違法性を帯びない限り当該国公法違反とはならず無罪とし、第二審では、本件争議行為を「政治スト」と解し、被告人を有罪判決としました。

で、上告しましたが、最高裁はこれを棄却。以下、判旨です。

判旨要約・解説

憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶが、この労働基本権は、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れない・・・

公務員の労働基本権に対し必要やむを得ない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由がある。
公務員は、公共の利益のために勤務するものであり・・・その担当する職務内容の別なく・・・その職責を果たすことが不可欠であって、
公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく・・・停滞をもたらし、
その停滞は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはそのおそれがある

公務員の勤務条件は・・・原則として国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることとなっており・・・
これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行うことは的外れ・・・

使用者としての政府によっては解決出来ない立法問題に逢着せざるを得ないことになり、ひいては民主的に行われるべき公務員の勤務条件決定
の手続過程を歪曲することともなって、憲法の基本原則である議会制民主主義に背馳市、国会の議決権を侵す虞れすら
なしとしない・・・

労働者の過大な要求は企業そのものの存立を危殆ならしめ、労働者自身の失業を招くことともなるから、労働者の要求はおのずから制約を受けるし、
また、いわゆる市場抑制力が働くが、公務員の場合にはそのような制約はない。

労働基本権を制限するにあたっては、これに代わる相応の措置が講じられなければならないが、現行法による措置・・・十分なものといえる

一般に政治ストは許されず、公務員はその上合憲である法律によって争議行為が禁止されている・・・二重の意味で許されず、それをあおる等の行為は、
憲法21条の保障する言論の自由の限界を逸脱するものである・・・合憲限定解釈は、かえって犯罪構成要件の保障的機能を失わせることになり、憲法31条に違反する疑いすらある・・・

よって、(地位の特殊性及び職務の公共性の他、勤務条件法定主義(議会制民主主義)、市場抑制力論、代償措置論より)
公務員の争議行為を一切禁止した国家公務員法98条5項、及び、同法110条1項17号は合憲である。

全逓中東京事件判決以来、
公務員の労働基本権についてリベラルな方向でゆるやかな規制の流れがありましたが、本件によってまた流れが変わりました。

本件の特徴の一点目として、憲法28条の労働基本権は公務員に対しても保障が及ぶとしつつも、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」という見地より公務員の争議行為の全面一律禁止を「勤労者を含めた国民全体の共同利益」によって正当化した点でしょう。

全逓中東京事件判決では「国民生活全体の利益」と比較衡量しつつ公務員の労働基本権制約要件が細やかに明示されていたのに対し、わりと抽象的な概念によって制約されています。

もう一点は、勤務条件法定主義(議会制民主主義)、市場抑制力論、代償措置論の観点より、まさに「一刀両断」しています。

私には、被告人の公務員に対し「お前ら調子に乗るなよ?あ?」と言っているように感じました。公務員の争議行為を「政治スト」とみなしているあたりにもそういった思いは感じます。あくまで私個人の見解ですけどね。

とにかく、これでまた公務員の労働基本権についての流れは大きく変わりました。