習得重要度A公務員の労働基本権についての重要判例。「全農林警職法事件」とともに判例の変遷について把握しておきたい。


昭和33年の春闘の際、被告人8名が全逓信労働組合の役員として、
東京中央郵便局の従業員を勤務時間に食い込む職場集会に参加するよう要請・説得し、
38名の従業員に対して職場を離脱させた行為が、郵便法79条1項の郵便物不取り扱い罪の教唆罪に当たるとして起訴されました。

郵便法79条1項【郵便物の取扱いをしない等の罪】

 郵便の業務に従事する者が殊更に郵便の取扱いをせず、又はこれを遅延させたときは、これを1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

争点と第一審・第二審

争点は、むろん、郵便局職員の争議行為禁止規定の合憲性です。
郵便法79条1項の罪による起訴なので、この件での裁判です。

第一審では、犯罪の構成要件には一応該当するが、
「一般の私企業の勤労者が行うの正当なものとされるような行為は、それが形式的は他の刑罰法規に触れる場合においてもなお労組法第1条2項、刑法第35条の適用があり違法性を阻却する」
として無罪になりました。

労働組合法1条2項【目的】

 刑法第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

刑法35条【正当行為】

 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

第二審では、
「公共企業体等の職員は、公労法第17条により・・・争議権自体を否定されているのだから、その争議行為について正当性の限界如何を論ずる余地はなく、従って労働組合法1条2項の適用はない」
として、破棄差し戻しの判決を下しました。

そこで、憲法違反等を理由とし上告しました。

判旨要約と解説

労働基本権は、単に私企業の労働者だけについて保障されるのではなく・・・公務員も原則的には、その保障を受けるべきもの
・・・15条に基づく「全体の奉仕者」論に立脚して、公務員に対して右の公務員労働基本権をすべて否定するようなことは許されない・・・

ただし、労働基本権の保障といえども何らの制約も許されない絶対的なものではないのであって、
国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包している

その制限は、
①労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較考量して、合理性の認められる必要最小限のものにとどめなければならない」
②職務または業務の性質が公共性の強いものに関しては、その停滞が国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、
これを避けるために必要やむを得ない場合に限られるべき・・・
③これらの制限に対する違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度を超えてはならず・・・刑罰は必要やむを得ない場合に限られるべきであり・・・
④労働基本権を制限することがやむを得ない場合にはこれに見合う代替措置が必要・・・

・・・以上のことから、本件被告人らの争議行為が、はたして正当なものであるかないかを具体的事実関係に照らして・・・原判決は破棄を免れない・・・

公務員の労働基本権については、大きな判例の流れがあります。

政令201号事件判決(最大判昭28.4.8)で、公務員の労働基本権を「公共の福祉」論、「全体の奉仕者」論にて広く認めるということで一つの流れを確立しましたが、本件の「全逓東京中郵事件」で、流れを変えました。

「全体の奉仕者」論より、公務員の労働基本権を原則的には認める方向に改められています。
そして、原則的には認める方向だが、「国民生活全体の利益の保障」という見地より、公務員の労働基本権には内在的に制約を受ける、ということになっています。

そして、その制限の内容を「国民生活全体の利益」とを比較考量して必要最小限度でバランスを取り、さらに、労働基本権が制限される場合には代償措置も講じられなければならないなど、非常にきめ細やかな明示、かつ、厚く公務員に配慮がなされています。

この流れはしばらく続くくことになり、全農林警職法事件までは公務員の労働基本権について緩めの規制になっています。


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