博多駅テレビフィルム提出命令事件-昭和44年11月26日最高裁判決

 

事案

昭和43年1月、学生運動メンバー約300名は、米原子力空母エンタープライズら艦船の佐世保寄港阻止闘争に参加するため、博多駅に下車。その際、警備などのために出動していた機動隊員たちと衝突しました。

この事件について、「憲法擁護国民連合(旧日本社会党系組織)」事務局長らは、衝突時の機動隊の行動を、特別公務員暴行陵虐罪、公務員職権濫用罪に該当するとして博多地検に告発しました。しかし、不起訴となったため、はかた地裁に付審判請求(刑事訴訟法262条)を行います。

同地裁は、付審判請求を行うためにRKB毎日放送やNHKらに、撮影した現場映像フィルムの任意提出をお依頼しますが、各社これを拒否。そこで同地裁は刑事訴訟法99条2項を行使し、状況を撮影したフイルム全部の提出を上記各社に命じました。

命じられた報道機関は、本件命令は憲法21条違反であるとして、本命令の取り消しを福岡高裁に抗告しました。そして、高裁が棄却したため、改めて最高裁に特別抗告がなされました。

判旨・解説

争点と判旨

本判決は、報道の自由・取材の自由について正面切って問われた事件ですが、具体的にはどんなことが争点になっていたのでしょうか。

それは、裁判所のフィルム提出命令が憲法21条1項で保障されている表現の自由に反することなのかという点です。比較的わかりやすい争点ですね。

では、判旨に行ってみます。

報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、需要な判断の資料を提供し、国民の知る権利奉仕するもの~事実の報道の自由は憲法21条のもとにある

報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない

しかし、取材の自由といっても、もとより何らの制約を受けないものではなくたとえば公正な裁判の実現というような憲法要請があるときはある程度の制約のあることも否定することはできない。

報道機関の取材フィルムに対する提出命令が許容されるか否かは、対象犯罪の性質、軽重および取材内容の証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するための必要性の程度と、これによって取材の自由が妨げられる程度を比較衡量して決めるべき

この件の場合、フィルムは裁判に重要な価値・必要性がある一方、報道機関がこうむる不利益は将来の取材の自由が妨げられる恐れがあるという程度にとどまるため、受忍されなければならない

解説

報道の自由について

まずは、報道の自由が21条の表現の自由にて保障されるものかという点ですが、1行目、民主主義の実現のための知る権利に奉仕するものとして、表現の自由のもとにある、すなわち、保障されるものとしていますね(1段落目)。

知る権利も表現の自由で保障されるものとあるわけで、そこに奉仕することが存在意義であるとされています。

学説では、編集作業は表現行為のひとつ云々なので21条で保障されるという論拠もありますが、判例ではその点は明確に述べられていませんね。もちろん、試験との関係では、判例の立場に立ちましょう。

取材の自由について

取材の自由についてですが、2段落目、ここは報道の自由と、若干ですが異なる見方をしているようです。

「報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いするもの」と、正面切って保障されるとは言わず、「値するもの」に留めています。ここは試験的にはポイントと言えます。

下の図式は覚えておくと良いと思いますよ。

それぞれが前提になるものなのですが、あくまで知る権利の保障のためのあのですね。判例はこのような表現をしているようですね。

制約について

以下は、その取材の自由らも無制限ではない、制約を受ける場面があるとしています。
4段落目が規範定立、5段目があてはめ・認定です。

この辺もガッツリでなくてもいいと思いますが、ある程度は把握しておけば、問題の肢の取捨選択の際に役立つかもしれません。