判例の変遷は、把握しておきたい。憲法秩序構成要素説はちょっと難しい考え方ではあるが、これもしっかり理解しておきたい。
公務員の人権ですが、何を根拠に制約が許されるのか。
まずは判例の変遷から紹介しましょう。
「全体の奉仕者」と「職務の性質」
「全体の奉仕者」
以前は、
憲法15条2項の文言を持ってきて「全体の奉仕者」
ゆえにそれが許されるとされていました。
しかしながら、
「全体の奉仕者」というのは、あくまで公務員の職務理念であり、
「全体の奉仕者」だから人権制約が許されるのだという理屈は
合理的では有りません。
全体の奉仕者だから人権制約が許されるなんて、
女だから何々、男だから何々、みたいなものだと思うのですが。
「職務の性質」
次に、「全逓東京中郵事件 (最高裁判決 昭和41.10.26)」で、
「職務の性質」という基準を採りました。
公務員の職務は、国民全体の利益の保障に資するという性質があり、
人権制約を内在的に受ける、そもそも一定の制約を受ける宿命があるもの
というものです。
しかし、
「職務の性質」という根拠は、一見合理的のように見えると思います。
少なくとも、「全体の奉仕者」よりは、はるかにしっくりきます。
公務員の「存在」と「自律性」
現在の主な考え方では、公務員の人権制約の根拠は、
憲法自体が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成要素として認めているから、と考えていきます(憲法秩序構成要素説)。
「存在」と「自律性」という言葉に着目して頂きたいのですが、日本国憲法では公務員の存在を15条で認めています。
公務員の存在
- 第15条
-
1 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
つまり、憲法は公務員の存在を前提にして憲法秩序を構成しており、一般国民とは違う、特別な存在として認めているから、人権制約されても仕方がない、一定の人権制約の根拠となっている、と考えていきます。
公務員の自律性
もうひとつの「自律性」ですが73条4号をご覧ください。
- 第73条4号
-
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
④ 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
73条は「内閣の事務」という規定ですが、
「官吏(かんり)」とは行政公務員の意で、「掌理」とは掌握とか管理とかの意です。
我が国は、「議院内閣制」という政治体制を採用しており、
総理大臣および内閣は選挙で選出された国会議員で構成する国会より民主的コントロールを受けています(66条3項)。
内閣総理大臣を長とした内閣を頂点とした行政は、ピラミッド型を形成しており、上意下達の命令系統で組織されている組織です。
このようにして、
末端まで民主的コントロールを受けることになるわけですが、
そこには他から影響を受けるよりは自律性を持った組織、すなわち、
何らかの形で上意下達の命令系統を乱した者は、制約を受けることは
憲法上の要請があるのではないかと考えていきます。
「自律」とは、すなわち、自らを律するという意味であって、
行政組織とは自律性ある組織であり、それが公務員の人権制約である、
という考え方です。
よって、
公務員が人権制約を受ける正当性の根拠は、
憲法自体が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成要素として
認めているからだと考えていきます。
「公務員はビシってしてなきゃダメだよ」
ということなんでしょうね。
公務員の人権制約-各論
それでは、公務員の人権について、各論に入ります。
一応、公務員の人権制約について、政治活動と労働基本権が問題に
なっているので、判例とともにご紹介していきましょう。
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