「公共の福祉」とは、どういう意味なのか?日本国憲法の中での意味合いとは違うイメージで使われているが、それほど難しい話ではないと思われるので、しっかり理解しておきたい。
「公共の福祉」。憲法の勉強をする上で絶対に避けて通れない概念です。この言葉自体もそうですが、資格試験に出てくる憲法の問題は、この公共の福祉がわかっていないとどうしようもありません。
というわけで、「公共の福祉」とはどういう意味で使われるのか、事例を作ってみました。わかりやすく解説できていると思いますので、参考になれば幸いです。
公共の福祉とは
「公共の福祉」とは、現在は
人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理
(一元的内在制約説)
と定義づけられています。
試験の場合などはこのままの定義で覚えていただいていいと思います。
若干わかりづらい表現かもしれませんが、人権制約についてのことかなーとイメージは沸くのではないでしょうか。
解説
これからこの「公共の福祉」について、わかりやすいように事例で解説してみたいと思います。
喫煙者と嫌煙家の衝突
あなたと親友のふたりが4畳程度の密室にいるとします。暫くは二人で談笑していましたが、喫煙者であるあなたは煙草を吸いたくて堪らなくなりました。でも、親友は煙草を吸いません。どころか嫌煙家。煙草の煙が大嫌いです。外へは出られないので、煙草を吸いたければ4畳の密室で吸うしかありません。
煙草を吸うことが「喫煙権」、煙草を嫌うことが「嫌煙権」という人権だとしましょう。(ここでの「喫煙権」と「嫌煙権」の対立については現実世界ではなく架空の世界だと思ってください。あくまでイメージで)ここであなたの「喫煙権」、親友の「嫌煙権」が衝突することになります。
人権が衝突するということは、お互いが己の人権を貫くことが困難になってきます。お互いの人権を貫けば、どちらかが多大な人権侵害を被ることになるか、どうしようもない混乱が起こることでしょう。
きっとあなたと親友の間で大きないざこざを起こすでしょう。仲が悪くなるでしょうし、どちらかが自分の人権を貫こうとすると、どちらかが大きな人権侵害を被ることになるはず。
どうしたらいいんでしょうね・・・
人権衝突は宿命
憲法で国民の人権は保障されています。
が、この例え話でおわかり頂けると思いますが、現実では、他人同士の集合体である以上は人権衝突の連続なわけです。そこらじゅうで常に人権のぶつかり合い。これはもう、人権の宿命なのです。もうしょうがない。人権を保障する以上、人権衝突は付いてまわるものです。
これ、放っておくとどうなるか?どちらかの人権が侵害されますよね?あなたと親友の例のように。勝者と敗者ができあがります。たいてい、力の弱いものが敗者です。被人権侵害者。こんな状況を納めるにはどうしたらよいか?しかも、お互い公平に納めなければなりません。出ないと状況は変わらないのと同じ。
人権衝突を治める方法とは
まあ誰もが思い浮かぶでしょうが、ルールを設けるしかないと思います。ということは、人権とは一定の制約を受けざるを得ないということになります。ルールを設けるということは、好き勝手出来ないということです。100%人権保障はできないということ。つまり、一定の人権制約があるということ。お互い妥協して、歩み寄ってもらうしかないということです。
これが「公共の福祉」です。
「公共の福祉」とは法律や条例のこと
みんなの人権をできるだけ保障したいので、皆さん、ちょっと妥協してください。
ちょっとした制約を受けることになると思いますが、そこは妥協してください。
この「公共の福祉」、具体的に言えば法律や条例ということですが、ここまでをまとめると、
- 一人一人の人権を保障すると必ずどっかで衝突する、これではどっちかが人権を侵害される
- だったら、ルールを設けてみんなの人権を少しだけ制約して妥協してもらう
- もちろん、その制約はお互い公平で良い具合に調整しますから
- そのルールとは法律や条例など
人権と人権の矛盾・衝突を公平に調整するために法律や条例で人権相互をいい具合に調整する。これが「公共の福祉」ということです。
あなたと親友のトラブル解決策は?
あなたと親友の例の場合でいえば、窓があったとして、時間を決めて、窓全開で外に向かってタバコを吸う、というルールを作ればいいかもしれませんよね?
お互いの制約は受けるでしょうが、そこは妥協してもらってですね。自分の主張は100%通らないとわかれば、一定の我慢はできるでしょう。
公共の福祉の意味は学説の変遷がある
冒頭部分で「公共の福祉」の意義について書きましたが、この概念は、いろんな変遷を経てこのような原理にたどり着いています。
例えば、人権はそもそも一定の制約を受ける(内在的)というものではなく、社会安寧のために制約を受ける(外在的)とか、外からも内からも制約を受ける(内在・外在二元的)とかもありましたが、今日では「一元的内在制約説」と言う説に至っています。
日本国憲法と「公共の福祉」
「公共の福祉」という単語、日本国憲法の中で4回出てきます。確認しておいてください。
- 第12条【自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止】
-
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
- 第13条【個人の尊重、幸福追求権・公共の福祉】
-
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
- 第22条【居住・移転・職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由】
-
1 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
- 第29条【財産権】
-
1 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
「公共の福祉」とは以上の4か所に出てくるわけですが、これらだけに妥当する原理ではありません。およそ人権と言うものにはこの原理が妥当すると考えてください。
二重の基準論とは-公共の福祉はダブルスタンダードでも良い理由
まとめ
以上、「公共の福祉」の意味についてお話させていただきました。
「公共の福祉」の問題は、試験における憲法という科目では最も大事な概念です。憲法は判例問題が非常に多いわけですが、その判例問題の7割8割がこの「公共の福祉」及び関連概念の問題と言っても過言ではありません。
人権制限の根拠とバランスにおいて、その「公共の福祉」は適切なのかどうかについての判例問題が非常に多く出題されるのです。
あわせて読みたい
おすすめ
行政書士試験のおすすめ通信講座

社会人受験生が多い行政書士試験に短期合格するため、質が良くて安い講座をランキング形式で紹介しています。忙しいあなたも働きながら行政書士資格が取れます!
司法書士試験のおすすめ講座

司法書士の通信講座を開講しているおすすめ予備校を、講義(講師)・テキスト・カリキュラム(教材)・フォロー体制・費用(価格・割引制度)・実績の6項目を徹底比較してみました。
司法試験予備試験のおすすめ予備校

予備試験講座を開講している予備校のうち、おすすめの予備校講座を各項目(講義・講師・テキスト・カリキュラム・フォロー制度・価格・実績)で評価し相対的にランキングを付けてみました。
いくつか調べたのですが、
これだけわかりやすい公共の福祉は
初めてです。
ありがとうございます。
お返事遅くなりました。管理人です。
とんでもございません。
お役に立てて何よりです。
ありがとうございました。
公共の福祉について四畳半の例話はイメージしやすかったです。ありがとうございます。
管理人です。
こちらこそありがとうございます。
お役に立てて良かったです。
「公共の福祉」についての解釈には、第十四条1項に掲げる「法」について解釈を必要とします。
憲法 第三章 第十一条、第十二条、第十三条、第十四条1項、第三十一条から導き出した解釈を示します。
___
この憲法は、すべて国民について、法〔衡平の原理〕の下において、公共の福祉に反しない限り、国民に自由を保障しており、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とし、法律の定める手続によらなければ、自由を奪はれない。
第十三条に掲げる「自由」について、自らの意思に由来する結果を得ることと仮定する。
他人との関係において、その結果が他人に及び、且つ、その意思に反するとき、その結果を得ることは、その他人において他由であって自由には該当しない。
よって、第十四条1項に掲げる「平等」に該当しない。
自己と他人との関係において結果を得ることについては、双方の意思〔所謂、合意〕に由来しなければ「平等」に該当しない。
よって、この憲法が第三章で保障する「自由」には、他人との関係において、その結果が他人に及び、且つ、その意思に反するとき、その結果を他人に担わせること〔所謂、負担させること〕を含まないものと解される。
つまり、自己と他人との関係において同項に掲げる「平等」に反する〔合意に由来しない〕限り、自らの意思に由来する結果を他人に負担させることについて、この憲法は第三章で保障していないものと解される。