板まんだら事件判例をわかりやすくシンプルに解説!司法権て何さ?

裁判所の役割は「司法権の行使」です。それは日本国憲法に規定されているし、三権分立の一翼も担っています。

その司法権には要件があります。どんな訴えも裁判できるわけではないのですね。警察予備隊違憲訴訟と並んで、司法権の要件について争われた判例に「板まんだら事件」というものがあります。

この板まんだら事件について、シンプルにわかりやすく解説してみたいと思います。

板まんだら事件の論点とは

板まんだら事件は、司法権の要件が争われた事件です。この事件では、板まんだらの宗教的価値について争われていますが、「それって裁判所が判断すべき事?」という点が論点。

それには司法権という権利の定義が大事になってきますが、その定義外になれば「裁判所ではできません。自分らで判断してください」ということになります。

たまにこの事件を司法権の限界と混同してしまう人がいますが、それは正しくはありません。わかりづらいとは思いますが。こちらはそもそも裁判の俎上に乗らない案件の話であり、限界云々までの話まで行っていないことに注意しましょう。

板まんだら事件の概要

それでは板まんだら事件とはどんな事件だったのでしょうか。

元創価学会の会員(17名)が、1965年10月、御本尊「板まんだら」を安置する正本堂建立のために計540万円を学会に寄付しました。これは、募集によるもので募金です。

しかし、この元会員らは、のちに「板まんだら」は偽物であり、寄付行為は、その目的の重要な要素に錯誤があったとして、寄付行為の錯誤無効(民法95条)及び不当利得の返還請求(民法703条)を主張し提訴。

そもそも板まんだらって何なのでしょうか。正直、この手のものはさっぱりなのですが、それ自体が信仰の対象となるご本尊のようです。曼荼羅が描かれた板か何かでしょうか…ヘタのこと言えませんのでこれでご勘弁を。

板まんだら事件争点の確認

で、この板まんだら事件で争点になっている真偽というのは、宗教的価値の話です。板まんだらというご本尊は信仰の対象としての真偽という意味。

そこを踏まえて原告側の主張は偽物、募金は錯誤によるもので、民法95条の錯誤無効を主張、無効だから、募金したお金を返してくれと訴えています。錯誤無効が認められるには、「要素の錯誤」が要件になり、募金の目的である重要な要素に錯誤がなければ認められません。

これ大事なのですが、その裁判は、要素の錯誤である信仰対象・宗教的価値についてが争点になります。

第一審では

第1審では、要素の錯誤の部分は、信仰の対象の価値・宗教上教義に関するものであり、「法律上の争訟」には当たらないとし、被告側の主張を認めました。

原告側は、控訴し、控訴審では、一転、不当利得返還請求の話であると1審判決を取消して差し戻し。学会側が、同様の主張をして、上告です。

板まんだら事件最高裁判旨

昭和56年4月7日、板まんだら事件の最高裁判決が出ました。以下判旨要約。

裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。したがつて、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であつても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえない、というべきである。

要素の錯誤があつたか否かについての判断に際しては、~信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断が、また、~宗教上の教義に関する判断が、それぞれ必要であり、いずれもことがらの性質上、法令を適用することによつては解決することのできない問題である~

~記録にあらわれた本件訴訟の経過に徴すると、本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となつていると認められることからすれば、結局本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであつて、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないものといわなければならない。

板まんだら事件最高裁判旨解説

1段落目、「法律上の争訟」を改めて定義づけていますが、「法律上の争訟」=司法権の定義ということですが、「訴訟当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、法令の適用により終局的に解決することができるもの」でなければ審判対象とはならないとしています。

1段落目の規範をこの事件の事実にあてはめてみたのが2段落目。

本件は、原告に要素の錯誤があったかどうかですが、其の要素の部分は、「信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断」、「宗教上の教義に関する判断」であり、その部分は、法令を適用して解決することのできないもの、つまり、裁判では解決できないものとしています。

これまでの当事者間の経過を見ても、終局的解決は見込めないとして、「法律上の争訟」に当たらないとしました(4段落目)。

板まんだら事件最高裁結論

板まんだら事件について、最高裁は、

  1. 裁判所は「法律上の争訟」でなければ審判対象としない
  2. 宗教上価値・教義の判断は法令を適用して解決できるものではない
  3. 当該事件についての審判は裁判所ではできない

1~3の流れでイメージつかんでおけば大丈夫です。

まとめ

以上が板まんだら事件の解説です。シンプルにまとめたのでわかりやすいと思います。

司法権の要件については板まんだら事件と「警察予備隊違憲訴訟」が特に重要です。いずれもパターンは違いますが、どういう理由で「法律上の争訟」ではないと認定されているのか、しっかり確認しておくと良いと思います。

繰り返しますが、司法権の限界の問題と似ていますが違います。司法権の要件の話ですのでちゃんと区別はできるようにしておいてください。