マクリーン事件判決を第一審からわかりやすく詳しくまとめてみた

憲法の試験対策において、よくい言われるのが「判例」です。判例の勉強が大事という意味ですが、その憲法の重要判例の中でも最も有名かつ重要なのが「マクリーン事件」のような気がします。

一般的にはそんなでもないですが、憲法学の中では非常に重要な判例なのですね。そのマクリーン事件について詳しくかつ分かりやすく解説したいと思います。

マクリーン事件は何が問題・論点になったのか

マクリーン事件は何が問題になった事件なのでしょうか。ひとことで言えば、マクリーン事件は「外国人の人権享有主体性」が問題になった事件です。のちに述べる事件の争点も、この外国人の人権享有主体性の問題を具体化したものです。

では外国人の人権享有主体性の問題とはどんな問題なのでしょうか。

外国人の人権享有主体性の問題とは

日本国憲法というものは、基本的には日本国民が対象の話なのです。日本国民の人権保障云々という。これは日本だけでなくそれぞれの国がそういう考え方をしています、程度問題ではありますが。

で、人権享有主体性の問題とは、人権保障される主体の範囲の問題です。外国人の人権享有主体性の問題とは、人権保障が外国人に及ぶのか、及ぶとすればどこまで及ぶのか、という問題です。マクリーン事件はまさにこれが問題になった事件なのです。

ちなみにですが。この人権享有主体性の問題は外国人だけでなく、法人、天皇があります。

マクリーン事件の事案

アメリカ人のロナルド・アラン・マクリーン氏は、昭和44年5月10日に日本に在留期間1年として入国し、直ちに語学学校の英語教師として雇用されました(のちに無届で転職)。

他方、マクリーン氏は外国人ベ平連に所属し、ベトナム反戦、出入国管理法案反対、日米安保条約反対等のデモや集会に参加していました。つまり、マクリーン氏は政治的活動を行っていた、ということです。

そして、マクリーンさんは入国から約1年後、在留期間更新を当時の法務大臣に申請しました。しかし、法務大臣は出国準備期間として120日間の更新を許可しましたが、以後の更新は不許可、日本の在留は許されなくなったということです。マクリーンさんはこの処分の不服として、その取り消しを求めて提訴。

マクリーン事件の争点

この事件の争点は以下の3つ。

  1. 外国人の出入国・在留の自由(憲法22条)が保障されるか
  2. 在留の自由の法務大臣の裁量範囲
  3. 外国人の政治活動の自由の範囲

補足します。1と3は先ほどお話した外国人の享有主体性の問題であるとことがお分かりでしょうか。出入国や政治活動の自由は日本人なら普通に保障される人権ですが、外国人であるがゆえに争点になっているのですね。

マクリーン事件第一審

第一審では、法務大臣の在留更新許可について、

「相当広範な裁量権を有する」としながらも「日本国憲法の国際協調主義および基本的人権保障の理念にかんがみ・・・最良の範囲を逸脱する違法の処分」

とし、法務大臣の処分を取り消しました。法務大臣は、マクリーンさんの在留更新不許可の理由について2点、無届で転職したこと、政治活動を挙げました。政治活動というのは、もちろんベトナム反戦、出入国管理法案反対、日米安保条約反対等のデモや集会のことです。日本政府の立場とは異なるものですね。

で、地裁は法務大臣の裁量行為(争点2)についてにやりすぎ認定したのですね。

マクリーン氏は、いわゆる不良外国人で且つ日本政府の立場と相いれない政治活動を行っていた、だから、在留更新はなし、という当時の法務大臣の判断です。マクリーン氏は、当然この判断が不満だったわけです。

日本政府はもちろん控訴します。

マクリーン事件控訴審

「(在留許可更新を認めるに足る)相当の理由があるときにこれを許可すれば足り、その際の判断は(法務大臣の)『自由な裁量』に任されており、在留期間中の政治活動を消極的資料とすることも許される」

と判示し、地裁の判断をひっくり返しました。

つまり、在留更新を許可するか否かは、法務大臣のさじ加減でいいし、在留期間中の(日本政府にとって好ましくない)政治活動をその判断材料としても構わないということです。

高裁では一転、法務大臣はやりすぎではなく、むしろ政治活動を判断材料にして構わないとしています。

これを受けてマクリーンさん側は最高裁に上告です。

一審・控訴審のまとめ

一審・控訴審は、法務大臣の裁量の範囲を大きく採るか、小さく採るか、やりすぎかそうでないかの認定の違いですね。

逆に言えばですね、争点1,3について、外国人の人権享有主体性の問題は、その判断を政治活動としていることで、事実上、外国人は政治的活動については制約を受けると判断しています。

マクリーン事件最高裁上告審

第一審、控訴審の過程でこのような争点をもって最高裁に判断が委ねられましたが、最高裁は高裁の判決を支持し上告棄却

判旨要約

「憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり・・・憲法上、外国人は、我が国に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、・・・在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもない。・・・更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨である」。

「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、我が国の政治的意志決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ」。

外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない・・・すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することは出来ない」。

解説

便宜上、3つに分けてまとめてみましたが、最初の段落では争点の1及び2についてです。順番が前後してしまいますが、2から。

判旨①:外国人にも人権保障が及ぶのか?

わが国において、外国人の人権保障が及ぶ範囲について述べています。いわゆる、外国人の人権享有主体性の問題の基本見解ですね。裁判所は、わが国における、外国人の人権保障が及ぶ範囲について、

「権利の性質上日本国民を対象としたものを除き、外国人にも人権保障が及ぶ」

としました。

日本に在留する外国人にも日本国民と同様人権保障が及ぶが、それは日本国民を対象にしている権利を除いての話であるということですね。これは争点1と3のベースになるものです。性質上日本国民対象の人権以外は認めてもいいよ、と。

これが「性質説」と呼ばれる規範です。憲法が科目にある試験受験生マストの論点。

判旨②:外国人に政治活動の自由は保障されるか

これは争点3ですね。外国人の政治活動の自由については、原則保障だが日本国民が影響を受けない程度との制約を設けています。ここであらためて国民主権原理が働いています。やってもいいけど、日本国民が民主主義を行使するに当たって影響を受けるようじゃダメだよ?ってことです。

判旨③:外国人の出入国の自由は保障されるか

1に戻って、外国人の出入国の自由について論じられています。争点で言えば1と2です。

外国人には出入国及び在留の自由が保障されているわけではなく、その判断は法務大臣の自由かつ広範な裁量に委ねられているものとしました。

外国人には出入国の自由がないとはいわないが、在留を含めて本人がそう希望したところで叶うわけではない、それは日本政府のさじ加減ひとつ、ということですね。

このへんのニュアンス感じて頂ければ幸いです。

判旨④:在留許可判断資料について

3段落目の部分は、争点2の補足です。

外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない

つまり、「在留外国人の人権保障は制度の枠組みで保障されている脆弱なものなんやで?」としその上で、

在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することは出来ない

と。法律家はこういった回りくどい言い方するのが好きなんで困りますが、要は、

「在留期間中の政治活動を消極的資料とすることも許される」

ということです。「消極的資料」とは在留延長の許可について「これはよろしくないね、在留許可出したくないね…」の判断材料みたいな意味合いです。

で、上は控訴審の判旨ですが、最高裁でも同意見ということになりますね。外国人の人権行使としての政治活動は、日本在留期間に関して大きな影響を及ぼすわけで、結局、その程度の保障しか受けられない、としています。

マクリーン事件補足

外国人の政治活動は違法あるいは憲法違反だと述べておられるよう方がいらっしゃるようですが、これは正しくありません。外国人による政治的活動について、それ自体は禁止されているものではありません

外国人の政治活動そのものを禁止している法律は存在していませんし、憲法違反か否かについては当判決が示している通りです。

しかし、憲法15条にもある通り、参政権は日本国民固有の権利とされています。そのような性質が強い政治的活動を外国人が行うことによって、日本国民の政治的表現活動が影響されるべきでないという価値判断はあってもおかしくないし、そういう趣旨で外国人の広義の政治活動を制限している法律(政治資金規正法)は存在します。

意見はそれぞれあっていいですが、憲法学者からは批判が多い事件ではあります。

まとめ

以上マクリーン事件、結構詳しく解説させていただきました。超が付く有名判例なので、ちょっと詳しめになりました。

外国人の人権享有主体性の問題は、他にもありますが、まずはマクリーン事件、これが基本です。他にも法人の人権享有主体性も重要箇所になります。