三権分立とは何?仕組みや日本国憲法との関係をわかりやすく解説

日本国憲法を論じる中で大きなキーワードはいくつかあります。「戦争放棄」はそうでしょうし「象徴天皇制」もそうかもしれません。「公共の福祉」もここに入れていいと思います。

「三権分立」もここに入れていいキーワードでしょう。そこで、三権分立とは何ぞや?について回答していこうと思います。多くの方に理解できるようにわかりやすくかつ詳しく解説しました。根拠を示すために憲法条文がたくさん出てきますが、でよろしければお付き合いください。

三権分立とは

三権分立とは、国家権力を3つの作用(司法・立法・行政)に区別・分離して、それぞれが不当に権力増大しないよう互いを抑制して均衡を保ち、以て国民の人権を守っていく統治機構の仕組みのことです。

ポイントは3つ。「区別」「分離」「抑制と均衡」です。国家作用を性質毎に「司法」「立法」「行政」に区別し分離、切り離すのです。そして、それぞれの機関を相互に権限を与えて権力抑制し均衡を保つ。そうすることによって国家権力による人権侵害を抑制するという仕組みになります。

権力というもの、一箇所に集中すると大きくなりすぎて暴走しがちです。そうなると、国民の人権を不当に制限しかねません。そこで、国家作用を性質で区別し3つに分離することで国家権力を削ぎます。例えば…

国家権力の暴走を止めるのが三権分立

立法作用が強力な権力を持っているA国で、議会が押し切ってくしゃみしたら懲役刑に処すなんてトンデモ法を制定してしまった…

これは、国家権力の立法作用の権力がなんか知らないけど大きくなりすぎて起こってしまったことです。これを止めるのは「内側」からしかできませんので、行政作用と司法作用に立法作用を抑制する術があれば防げたはず…

三権分立とはまさにこれです。相互に監視・抑制させ均衡を保たせておけば、権力の不当な人権侵害は防げるだろうという考え方です。

三権分立と権力分立の関係

このような権力濫用抑止のために権力を分散させれば国民の人権保障に資するという考え方を権力分立(けんりょくぶんりゅうとも言います)と言い、三権分立はこの権力分立のいち場面であり、別の形態でも権力分立は見受けられます。

例えば、地方自治制。中央と地方の権限分配は権力分立の表れと言えるでしょうし、衆議院と参議院という二院制もそう言っていいのかなと思います。

権力分立4つの特性

権力分立には4つの特性があります。キーワードは自由主義的、消極的、懐疑的、中立的です。

  • 権力の集中により権力が濫用され国民の自由が侵されないように国家権力から国民の自由を守る、という意味の自由主義的
  • 互いの権力を抑制しあい小さくする方向に働く、という消極的
  • 国家権力及びそれを行使する人間に対する不信任、疑ってかかるという意味で懐疑的
  • どのような政治体制のもとでも当てはまる原理、という意味で中立的

三権分立の端緒

この三権分立を唱えたのは、18世紀のフランスの思想家モンテスキューだと言われています。

中世ヨーロッパの王政下では、強大な権力を持った王が人民に不当な重税を課し、様々な人権侵害が行われていました。モンテスキューは、そういった歴史の反省より自身の著書「法の精神」の中で国家権力を分離抑制することで人権保障に資することができると唱えています。

日本国憲法と三権分立

三権分立は日本国憲法でどのように規定されているのでしょうか。日本国憲法は「日本は三権分立です」と規定している条文はありません。いくつかの条文を集めて日本は三権分立だねとなっているのです。

それは以下の3つ。上でお話した「区別」「分離」の部分を意識してお進みください。

第76条1項(司法権)

すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

第41条(国会の地位・立法権)

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第65条(行政権)

行政権は、内閣に属する。

国家作用を性質毎に3つに区別して分離させると日本国憲法は宣言しています。

  • 司法権裁判所「すべての司法権は最高裁判所(中略)下級裁判所に属する」
  • 立法権国会「国会は(中略)唯一の立法機関である」
  • 行政権内閣「行政権は内閣に属する」

行政権はちょっと弱めですが、司法権と立法権はそれぞれ裁判所と国会の専任事項とハッキリ言っています。これで国家作用を性質で3つに区別してそれぞれで独占(分離)させていることが分かると思います。

ちなみにですが、行政作用とは、国家権力のうち立法作用と司法作用を除いた(控除)ものと定義します。行政とは法律を行使する作用と言えますが、実際はもっと多岐に渡るので、控えめな表現になってしまうのです。

三権の長は?

ところで、司法・立法・行政のそれぞれの長は誰なんでしょうか。

  • 行政の長:内閣総理大臣
  • 司法の長:最高裁判所長官
  • 立法の長:衆議院議長・参議院議長ということになりますね。それぞれ選出方法についての憲法規定を記しておきます。

58条1項
両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。

66条
内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
② 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
② 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

三権分立の仕組み

三権分立仕組み図

これから三権分立の仕組みについてお話します。上のポイントで言うところの「抑制と均衡」の部分になります。まずは上の三権分立図をご覧ください。

 

よくご覧になる図と思いますが、三権が三角形を構成して真ん中に国民がいる、そして相互に矢印が伸びています。この矢印が「抑制」になりますね。別機関に対して固有の権限を持っているので相互権力の抑制効果がありますし、それによって「均衡」が保たれるという形ですね。

ではそれぞれの矢印について解説したいと思います。

裁判所から 国会・内閣への抑制

司法権から行政権・立法権への抑制

裁判所から立法権・行政権への抑制は、違憲立法審査権(81条)の行使です。違憲立法審査権とは、法令・その適用等の合憲性を審査する権限ですが、立法・行政の暴走に歯止めをかけることになります。

立法権は法律を制定する機関、行政権はその法律を運用する機関。立法権は人権侵害を引き起こすような法律の制定はできませんし、行政権は憲法違反を疑われるような法運用はできません。まさに、司法権による人権侵害の歯止めになり得ます。

実際、違憲判断は過去何度か出されていて、法令違憲(法律自体が憲法違反していると判断)は有史以来11例あります。1件は削除9件は法改正1件は未定(時間経てないため)です。

81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

国会・内閣から裁判所への抑制

立法権・行政圏から司法権への抑制の仕組み

逆に、国会・内閣は裁判所に対してどのような抑制権を持っているのでしょうか。国会・内閣は裁判官の任命権・懲戒権を持っています。

裁判官弾劾裁判所の設置

国会には裁判官弾劾裁判所の設置権があります(64条)。裁判官弾劾裁判とは、裁判官としての身分にふさわしくない行為をしたり職務義務違反をした裁判官に対して訴追罷免をする裁判です。この裁判は衆参両議院の議員で構成されるのです。

裁判官は憲法で規定されるほどの身分保障がありますが(78条)、64条はその例外規定とされています。

64条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

裁判官の指名・任命

司法権の長である最高裁判所長官は内閣が指名することになります(6条2項)。任命するのは最終的に天皇ですが、事実上内閣に決定権があるということになります。

また、下級裁判官の任命は、内閣の権能(80条1項)。名簿自体は最高裁からのものですが、内閣の任命無き者は判事になれないということです。

6条  天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

80条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。

国会から内閣への抑制

国会から内閣への抑制仕組み

国会から内閣に対してですが、内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で選ばれます(67条)。議決ですからいわば国会の総意です。多数の支持が必要になります。

もうひとつ、内閣は国会からの信任が必要です。内閣が何らかの問題を起こして国会野信任をなくすと、国会は内閣不信任を突きつけることができます。この不信任が可決されると、内閣は総辞職となります(69条)。もっとも、69条については内閣は国会へのカウンターを持ち合わせています。それは次で。

69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

内閣から国会への抑制

内閣から国会への抑制仕組み図

内閣は、衆議院から内閣不信任を突きつけられたら総辞職しなければなりませんが、衆議院を解散に追い込む権限もあります(69条)。議員を失職させる権限ですね。内閣総辞職か衆議院解散は状況に応じて選択できます。衆議院解散になれば総選挙が待っているので勝てると思えば解散選ぶでしょう。

内閣自ら総辞職選ぶとは考えづらいですし、国会も衆議院解散されたら無職になるのでそこは駆け引きなのでしょう。

国会召集の決定権は内閣にあります。53条は臨時会についてのみ記述がありますが、通常も特別も決定権は内閣にあります。

53条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

三権分立と国民の関係

三権へ国民からの抑制

三権分立というシステムはそもそも国民の人権保障のためのシステムなので、国民がないがしろにされているわけではありません。国民から国家権力への抑制の仕組みも備わっています。

最たるものは選挙です。もちろん国会は国民が選挙で選んだ自分たちの代表者が担っているわけで、ここに民主主義原理を働かせていくことができます。おかしな代表者は選挙で失職させることができますので、権力抑制の力になることでしょう。

司法権にも民主主義原理が働きます。最高裁判事は国民審査で選ばれた者たちです(79条)。司法権はもともと民主主義原理が働きにくい機関ですが、唯一と言ってよい司法権への働きかけです(機能してるか否かは別話ですが)。

国民から直接内閣への法的抑制はありませんが世論という強力な抑制機能があります。

79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

日本の三権分立は変則的?-議院内閣制

ちょっと補足ですが。実は日本の三権分立システムはきれいな正三角形ではありません。ちょっと変則的です。

内閣総理大臣は国会議員の中から選ばれますし(67条1項)、国務大臣の過半数も国会議員から選ばれます。つまり、内閣は国会の信任があって成り立つものなのです。

こういうことからも国会と内閣はわりと近しく緩やかな分離。いわば国会と内閣は信任から来る協力関係といえます。

だからこそ、その信任が破綻すれば不信任突きつけられるし、可決すれば内閣総辞職です。66条3項では、

内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
内閣は連帯して責任を負うことになるからこその総辞職なのですね。このような政治システムを議院内閣制と言います。

議院内閣制という制度は、何も日本特有の制度ではなく、世界中の国で採用されている制度です。ちなみに、日本の議院内閣制はイギリスの制度を参考にしていると言われています。

まとめ

三権分立、いかがでしょうか。

三権分立は何のためにあるのか(目的)、そして、日本国憲法下でどのように反映されているのか(手段)についてできるだけ詳しく解説させていただいたつもりです。

テレビで漏れ伝わってくる政治ニュースと三権分立のイメージをリンクさせてみるとちょっと面白いと思います。試してみてはいかがでしょうか。