この件は違うが、プライバシー権と21条の衝突問題の問題意識として、非常に参考になる事例だと思う。


事案

被上告人は、某自動車教習所の技能指導員をしていましたが、
解雇され教習所に対して地位保全の仮処分を申請していました。

その後、
教習所側の弁護士は、弁護士法23条に基づき、
その所属する京都弁護士会を介して京都市伏見区役所に、
「中労委、京都地裁に提出するため」被上告人の前科及び犯罪歴に
ついて照会、同区役所はこれを同市中京区に回付し、同所から弁護士会宛に、
被上告人は道交法違反11犯、業務上過失傷害1犯、暴行1犯の前科がある旨の回答がありました。

弁護士を通じて被上告人の前科を知った教習所は、
この経歴詐称を理由に予備的解雇を通告しました。

被上告人は、
自身の名誉、信用、プライバシーに関係する「自己の前科や犯罪を知られたくない権利」を侵され、
予備的解雇を通告されたことで幾つもの裁判等を抱え多大な労力・費用を要することになり、この原因は中京区長の過失にあるとして、上告人に対して損害賠償を求めました。

第一審・第二審

第一審では、
「個人のプライバシー等が侵されることがあるのはやむを得ない」とし、
権威ある弁護士会からの法律に基づく照会について、
公務所は応ずる義務があるわけで、区長には故意または過失はないとしました。

控訴審判決では、
第一審判決を変更し、前科や犯罪経歴の公表については、
法令の根拠のある場合とか、公共の福祉による要請が優先する場合であり、
本件の場合はそうではなかったとして区長の行為の違法性を認め、被上告人を請求を一部認めました。

判旨要約・解説

前科及び犯罪経歴葉、人の名誉、信用に直接係わる事項であり、前科等のある者も
これをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する

弁護士法23条の2に基づく前科等の照会については格別の慎重さが要求されるが、
本件のように「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」といったように、漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、
前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当
である。

前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり・・・公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であっても、
その公開が公正な裁判の実現のために必須なものであり、他に代わる立証手段がないときのように、プライバシーに優越する利益が存在するものでなければならず、
その場合でも必要最小限の範囲に限って公開しうるにとどまる・・・

判旨では、前科等の犯罪歴などは、
「他人にもっとも知られたくないものの一つ」としており、
その首長が弁護士法に基づいて前科等をすべて報告したことは、
公権力の違法な行使としてプライバシー権の侵害と認定しました。

前提として、
プライバシー権が憲法上保障され得るものとしていますね。

そして、
このようなプライバシーに関わる個人情報の公開が許される場合は、
それ相当の理由がなければならず、本件のように、
ただ漫然と(漫然かどうかは意見の分かれるところだと思いますが)
公開されることは、違法行為であるとしています。

プライバシーに関わる個人情報でも、その内容によってバランスを
取らなければならないということだと思います。

この手の問題は、21条との衝突が問題になってきますが、
(この事件は違いますけど)その情報を公開する利益は何だろう?問題意識が必要なわけですね。

この裁判は、
最高裁で上告が棄却され、第二審の被上告人の請求が一部
認められた形で結審しています。